始めに
話せばお互いが分かり合えるというのは本当でしょうか?他人と真に理解し合うことの難しさは、私たちが日常的に感じるものです。
この理由を説明する考え方の1つに、「成人発達理論」という考え方があります。この理論は、私たちの成長は一生続くという前提に立っています。そして、私たちはそれぞれ異なる成長段階にいることを前提としています。重要な点は、異なる成長段階にいる人同士は「考え方や捉え方の前提」が異なるためにお互いを理解することが不可能という点です。
今回の記事では、「成人発達理論」を基に、「なぜ人と分かり合うことが難しいのか」を考えてみましょう。
本記事のポイント
・成長の速度は人によって異なる。そのため、自分より若い年齢の人であっても、自分より高い成長レベルに達している人もいる。また逆に、自分よりも年齢が高くとも、自分より低い成長レベルでと止まっている人もいる。
・この考え方は「成人発達理論」で知られている。この理論は、異なる成長の段階ごとに、考え方や視野が変化することを示している。成長の段階とは対象物 (客体) の捉え方の広さであり、上位の成長段階に上がると、より視野が広くなる。なお、成長の段階の到達に年齢は関係ない。
・成長段階が異なる2人が話をした場合、相手を全く理解できないという状況が起こる。
・理論を理解することで、より意味のある人生を送ることができるようになる。
学びを身に付けるために実践したいこと
難易度 1: 簡単に始められる行動
1. 自分の行動を振り返り、現段階の成長段階を客観的に評価する。
2. 相手の長段階を意識して、自分とは異なる視野を持つ可能性を前提に関わる。
難易度 2: 少し努力が必要な行動
3. 偉人の書籍などを通じて、自分より高い成長段階にある人々の経験や考え方に触れる。
難易度 3: 継続的な努力が必要な行動
4. 相手の成長段階を理解し、それに合わせたコミュニケーションを心がける。例えば、道具主義的段階にある人とは、より具体的な相手側のメリットを中心に話す。他者依存段階にある人とは、社会的ルールをより考慮する。
5. 異なる成長段階にある人々と積極的に関わる。関わりの中から、自分の成長や相手の成長にできることを考えて実践する。上位の成長段階を目指し、視野を広げることを意識する。
本記事で学んでほしいこと
成人発達理論について
私たちの成長は成人に達した後も止まることなく続きます。
そして、成長の速度は人によって異なります。そのため、自分より若い年齢の人であっても、自分より高い成長レベルに達している人もいます。また逆に、自分よりも年齢が高くとも、自分より低い成長レベルでと止まっている人もいます。
このような考え方は、「成人発達理論」で知られています。この理論は、さらに異なる成長の段階ごとに、考え方や視野が変化することも明らかにしています。
一見同じに見えても、成長段階が違う2人の間には大きな差が存在しているといえます。そのため、成長段階が異なる2人が話をした場合、相手を全く理解できないという状況が起こります。
人生の5つの成長段階
成人発達理論によれば、人生は5つの成長段階をに分けられます。
これらの段階は、私たちの思考や視野の広さに影響を与え、各段階で異なる特徴を持ちます。よく誤解されがちな点として、この段階の到達に年齢は関係ありません。若くとも高い成長段階にいる人もいます。また逆に、年をとっても低い成長段階から変化しない人もいます。
成長における誤解
また、低い成長段階にいても、上位の成長段階の行動を出来ていると錯覚している場合もあります。しかし、これは見かけ上の行動変化の話になります。この様な成長は、それは同じ成長段階の中で能力が拡大できたという話にすぎません。
上記のような成長は同じ成長段階での横への広がりです。発達段階理論で重要な点は、成長段階という縦の成長です。縦への成長は行動だけでなく、対象物 (客体) の捉え方の広さに関わってきます。この点はよく誤解されますので、注意が必要です。
具体的思考段階(成人前)
全ての人が経験する段階です。特徴として、具体的な物事は理解できます。一方で、抽象概念は捉えられません。
道具主義的段階
全成人の10%がこの段階といわれます。基本的には自己中心的な考え方世界や他人をとらえます。
自分にとって有益かどうかという狭い点でしか、世界や他人を考えることができません。そのために、他者の感情や思考を理解するのが非常に難しい特徴があります。
また、二分法的 (良悪・好嫌と明確に二分する) な世界観を持っていることが多いことも特徴です。
他社依存段階
全成人の70%がこの段階といわれます。言いかえれば世の中の大半の人はこのレベル以下といえます。
道具主義的段階よりも上にいるために、社会や他人の気持ちを汲み取れるようになります。しかし、行動の前提が組織や社会のルールに依存しています。他者の基準で自分の行動を決定している特徴があります。
官僚化した組織に多く見られます。組織としては、この段階の但しが多いと組織運営は非常に容易となります。ただし、他者の基準で行動を決定しているため、基準が不明確だと、思考停止段階になります。
自己主導段階
全成人の20%がこの段階といわれます。自分独自の価値基準や意思決定基準を持っています。そのため、自分の価値や基準を基に自律的な行動が可能になります。
常識や権威に対して疑いの目をもって、それを超越していける判断力があります。社会や他人の気持ちをより深く汲み取れるようにもなります。
ただし、全てが自分の基準に縛られてしまうという限界もあります。そのため、人の意見を素直に受入れられないという特徴があります。場合によっては、自分の基準に対する反対意見に対して、強い反発をすることもあります。
自己変容・相互発達段階
全成人の1%未満がこの段階といわれます。あなたの知る人間関係の中には存在しない可能性が非常に高くなります。
自分の価値基準や意思決定基準は当然持っています。しかし、それらに捉われることがなく、多様な価値観や意見などを汲み入れ最適な意思決定を柔軟にできるという特徴があります。
これより前の段階は自分を中心としていました。しかし、この段階では中心は自己と他人の両者になります。つまり、自己成長と共に、他者成長も考えられるようになります。
他人も中心に考えられますので、社会や他人の気持ちを健全に汲み取れれます。それだけに留まらず、他者成長のために他者の気持ちを基に好意的に働きかけが出来るという特徴があります。
自己成長への支援
各段階における成長は、私たちが世界をどのように見るか、どのように反応するかに大きな影響を与えます。これは、対象物 (客体) の捉え方の広さであり、上位の成長段階に上がると、より視野が広くなります。さらに、成長段階が上がると過去の自分 (自分の見方・振舞い方)すらも客観的に捉えることができるようになります。
上位の成長段階に進むには、それまでの自分を客観的に見る能力が必要です。そして、自己の問題を自分で認識して、自己変容の努力をすることが必要です。
しかし、自分より上位の成長段階の考え方直接理解することは不可能です。そのため、個人の視野を広げるような支援が重要になります。
自己成長の先にあるもの
成人発達理論は、成長が生涯にわたって続くことを前提としています。そして、私たちが人生のどの段階にいても、成長と学びは続くという重要な点を示しています。
この理論を理解することで、自己の成長を促進できます。そして最終的には、他者の成長を支援することに至れる可能性も示しています。このことは、私たちがより意味のある人生を送ることができるようになるとも言えるでしょう。